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「絶対、嫌だ」
Aさんの気持ちを優先するべきだって、それを免罪符にして距離をとってたけど。
そんなの、体のいい言い訳だ。
抱きしめられてる腕の、手の先を。
彼女の指先ごと強く握る。
「好きになって貰えるように精一杯頑張ってみるよ。
後悔しないように最後の悪足掻き、したいんだ。
Aさんを困らせる事になるけど、ごめんね」
距離感を間違えないように。
少しずつ段階を踏んで、キムソクジンという人間を知って貰おう。
『ソクジン……さん？』
眠そうな、ぽやっとした彼女の目が俺を映す。
もう今日は開く事がないと思ってたから驚いたけど、嬉しい。
それが表情にも出てしまう。
酒のせいで微かに赤くなったAさんの頬に、そっと触れる。
彼女の体温が伝わる。
「もう他の部屋に行っちゃダメだよ？
俺が起こしに来るまで、ここで寝ててね。
おやすみ」
子供を寝かしつけるような穏やかな声を出そうと意識しなくても、Aさんを見てると自然とそんな声が出る。
何度も閉じそうになる目を開けようと頑張ってるから、
“眠っていいよ”って囁く。
すると、やっと瞼が下がって一瞬だけ仄かに彼女の口角が上がった。
心地良さそうな表情。
こんな微睡んだ状態じゃ、きっと明日には覚えてもないだろうけど。
今は俺の声が届いたって考えると、それだけで心があったかくなって。
彼女のおでこに軽く唇を押し当てた。
“少しずつ段階を踏んで……”って、さっき思った所なのに、早速我慢出来なくなってる自分に呆れて苦笑い。
本当しっかりしないと何しでかすか分からないな、って自分を戒めて。
これは、男のベッドに潜り込んで来た罰って事にして貰おう。
眠って力が弱まった腕から自分の片腕を抜いて、振動で起こさないように気を付けながらベッドから下りる。
Aさんが寒くないように肩まで布団を掛けてから、リビングのソファへ向かった。
4.29
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作者名：lia | 作成日時：2024年4月15日 18時
