名前は付けない 2 / JN (ページ10)

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違う所に意識を持って行こうと考えを巡らす。

酔ってるし寝ぼけてるのはわかるけど、いくつも部屋があるのに、どうしてこの部屋に来たんだろう。
さっきのパーカーの事が思い出されて。

“この匂い……好き”

何で俺の匂いが好きなんだ。
あんな事をされたら好意を持たれてるのかも、って勘違いしたくなる。

流石に匂いと部屋の間違いは関係ないだろうし、俺に抱きつく事はなかったけど。

Aさんがベッドに入り込んだのが俺以外のそれじゃなくて、良かった。

ふと横の顔を見ると。
Aさんの行動に、一人で頭を悩ませてる俺の気も知らず仄かに口角を上げて寝息を立てている。

幸せそうに寝ちゃってさ。
対比のような呑気な寝顔に思わず笑みを溢す。

体ごと彼女の方に向いて。
聞かせる気もない言葉を呟く。

「またAさんに会えて俺がどれだけ嬉しかったか、知らないでしょ」

今までの恋愛も、それ以外でも。
何にも執着することの無かった俺が、Aさんをずっと忘れられずにいた。

再開した時、誤魔化した気持ちは一ヶ月経っても燻る一方で。
やっぱりこの子が好きなんだなって、ただ自覚するだけの時間になった。

Aさんにしてみれば、逃げ出すくらい嫌だったんだろうし、全部…………、嘘だったし。
俺だってあんなに苦しい思いを繰り返すなんてしたくない。

そうは思っても。

このまま仕事上の会話だけ続けて、お互いの間にある距離が変わらずにいたら、“アイドルとマネージャー”ってだけの関係で終わる。

こんな近くにいるのに触れることも出来なくて。
いつか誰かが彼女を攫って行くのを傍観するだけになってしまう。

他の奴が、そいつの手で幸せにしていく過程をただ見てる、なんて。
耐えられるのか？

そんなの ────。